自ら考え動き、共につくる「三宿ブランド」を目指して

世田谷区の東端、国道246号と三宿交差点で交わる都道420号。通称「三宿通り」として知られるこの通り沿いの店舗を中心に組織するのが「MishukuR.420(三宿四二〇商店会)」だ。1980年代後半にバブルで世間がにぎわうなか、隠れ家的なおしゃれなまちとして多くの人が訪れた「三宿」も、20年ほど経った今ではかつてほどのにぎわいは見られない。
そんななか、駅から離れた立地に加え店舗と住宅が混在するという商業には決して有利とはいえない環境のこの地で、2009年に新しい商店会は産声を上げた。近年、大規模商業施設の開発やネットショップの普及もあって、全国各地で商店街は苦境に立たされている。新しい商店会は何を目指し、どこへ向かうのか。商店会設立のキーマンである会長の間中伸也氏に、これまでの活動と今後の展望、そして三宿への思いを聞いた。

■START:設立時の思い

まさにゼロからのスタートで生まれた新しい商店会「MishukuR.420」。間中会長は、設立のきっかけをこう振り返る。

間中:設立当時は、すでに自身の店舗「HTOKYO」も三宿通りにオープンしていたのですが、もともと営業をする上で近隣の店舗や住民の方々とのつながりは大切にしたいと考えていました。その一方で、以前IID世田谷ものづくり学校に在籍していたとき、イベント企画のなかで地域の店舗の協力を仰ぎたいと思い、いっそのこと店舗間を連携して組織化した方が効率的だと考えていました。こうしたタイミングが重なったこともあり、この輪を広げて地域全体として盛り上げていきたいと思ったのが商店会設立のきっかけです。

設立のためにはまず会員を集めなければいけない。その頃は手伝ってくれる人はほとんどおらず、親しい仲間にお願いして4人ほどで一店舗ずつ説明にまわったという。

間中:やはり、何のために商店会を立ち上げるのかを理解してもらうためには、ただ資料を投函するだけではなくできるだけ直接話すことが大切だと思い、直接お店に出向いて説明をしてまわりました。また、合わせて説明会も複数回開いて、設立の趣旨をより理解してもらう努力もしました。結果的には、想像していた以上に参加したいという意欲のある店舗が集まり、20店舗ほどで商店会をスタートさせることができました。

■SHARE:参加意識の共有とイベントの開催

店舗が商店会に参加し共に活動する上では、組織の「目的・意義」を理解し共有することがもっとも重要となる。しかし、それぞれに異なる業種、形態で店舗経営をしているなかで、これを皆が共有して一つの方向に向かうためにはそれなりの苦労が想像される。

間中:設立時には、20代後半から40代前半の比較的若いメンバーが多く、これから商店会をどのようにしていくか、何をしたいかについて話し合う場を集中的に設けて熱心に議論したこともありました。話してみると、それぞれに個性的な考えを持っていることがわかり、とても楽しかったことを覚えています。しかし実際に運営をはじめてみると、それぞれができることや使える時間も異なりますし、皆が考え方を共有して活動を実行していくということには難しさを感じたこともあります。また、会費を徴収して運営する以上、何かしらのメリットを求められることは当然です。できることならば、「商店会に加盟したおかげでお客さんが増えて各店舗の売り上げが上がる」ということを目指したいところですが、商店会が存在するだけで何かが変わるわけではありません。商店会は、ある意味では町内会のような住民組織であり、加盟している店舗は皆が同等の立場です。そのため、皆が同じ意識で自主的に活動することが理想だと思っています。また、メリットは必ずしも売り上げやお客様が増えたという目に見えるものだけではなく、人とのつながりや交流を通じて得る経験やスキルといった目に見えない価値もたくさんあることを知ってもらいたいとも思っています。設立して間もない頃には、こうしたメリットを明確に示すことも難しかったですし、理解して頂くことにも苦労をしました。実際には、営業形態の都合や会社の意向などもそれぞれの店舗で異なるので、現状でも皆の足並みをそろえることは大変難しいと感じていますが、まずは目に見えない価値を理解してもらうことからはじめるしかないと考えています。

そんな苦労を重ねるなか、設立から2年で「世田谷パン祭り」をスタートさせる。今では全国各地で開催されているパンイベントの先がけである世田谷パン祭りは、2日で5万人を集客する大イベントに成長した。このイベントの開催が、まだ若かった商店会にとって大きな転換期となる。

間中:設立から数年、小さなイベントは繰り返していましたが、組織としての変化やまちづくりに関する活動については少し物足りなさを感じていました。また、会員も活動に対する意識は高まってきたものの、皆がイベントの企画や運営に慣れているわけではなく、大きな変化を生むのは難しいと思っていました。そこで、地域に関わりのある外部の人材の力を借りて、大きい規模のイベントを開催しようと思い「世田谷パン祭り」の企画にいたりました。ただ、当初は「なぜパンなのか?」という質問はよくありましたね(笑)。パンに着目したきっかけは、過去に私が三宿のツアーをおこなったことがあって、その際に近隣の人気のパン屋さんをまわったところ思いがけずに好評だったということです。そこであらためて調べると、会員を含めて近隣にはおいしいパン屋さんが多いことはもちろん、世田谷区内には有名なパン屋さんがとても多いということに気づきました。そこで、おいしいパン屋さんを中心に、商店会の店舗も一緒になって地域を盛り上げる大きなイベントを開催しようと考えました。ここでこだわりたかったのは、手づくりでおこなうことで地域や人をつなげるローカルの新しい形を生み出すこと、そして日本で最高のパンイベントとして、日本国内だけでなく世界からも訪れてもらえるイベントにしたいという思いでした。回を重ねるなかで、こうした思いや商店会のあり方を会員のなかで少しずつ共有できた気がします。

世田谷パン祭りの開催は、これまでに8回を数える(2018年現在)。第1回は、IID世田谷ものづくり学校と池尻小学校第二体育館での1日のみの開催であったが、今では世田谷公園、池尻小学校校庭まで会場エリアを広げ開催日数も2日にするなど、その規模を拡大している。こうしたイベントを運営し続けた経験が会員のなかでも自信につながったのか、近年では商店会の主催イベントとして「三宿さくらマルシェ」「三宿十の市」という新たなイベントを世田谷公園で立て続けに開催している。こうした動きは、トライ&エラーを繰り返しながら継続してきた経験にもとづくものであり、少しずつ当初描いた商店会の理想の形に近づいてきたようにも思える。間中会長はこうした変化をどうとらえているのか。

間中:世田谷パン祭りをはじめて開催してから数年は、会員もどのようにイベントに関わってよいのか戸惑っていたようにも思えます。しかし、開催を重ねていくうちに、それぞれにできること、得意なことを見つけることができて、皆が自分たちでイベントを企画・運営できると思いはじめたのではないかと感じています。そのおかげで、世田谷パン祭りに続く自主イベントを開催し、年間を通じて地域を盛り上げたいという気持ちが高まりました。「三宿さくらマルシェ」は、お花見の名所である世田谷公園を活かした春の飲食のイベント、「三宿十の市」は、それまでIID世田谷ものづくり学校で開催していた「三宿蚤の市」の会場を公園に移して拡大した初夏の物販イベントという位置づけです。この先も、夏のイベント、冬のイベントなども企画して、年間を通してにぎわいを生み出したいと考えています。

■CHANGE:変化が求められる10年目

設立からここまで、大小様々なイベントの開催、清掃活動や地域団体への協力などの地域活動を通じて、会員同士のつながりや信頼感が生まれ、組織としての一体感も少しずつ高まってきた。

間中:大きなイベントばかりが目立ちますが、定期的な清掃活動や福祉施設へのお弁当の提供など、様々な地域活動もおこなってきました。こうした経験もあって、商店会という組織でありながら会員のなかでは自分たちのお店を考える前に地域のことを考えるという意識が強くなってきたと感じています。地域を意識すると、会員同士だけでなく地域住民や地域団体、行政の方々、活動を通じた外部の専門家などの幅広い人とのつながりが増え、新しい情報もたくさん入ってくるようになります。本業だけでは得られないこうした人とのつながりは、個人の能力にもプラスになる大きな価値だと考えています。こうした経験が、結果的に商店会の実務でも活躍してくれる人材が増えてきたことにつながっています。

会員内では良い変化が生まれている一方で、活動の幅が広がってきたことによる人手不足は悩ましい問題のようだ。

間中:会員間の結束が高まり活躍する人材が増えたといっても、実務を担えるメンバーはごく一部に限られているのが実情です。来年(2019年)で設立から10年の節目を迎えますが、その先を見据えれば運営体制も大きな変化が必要だと感じています。現状のような一部の人間に負担がかたよっている状況を改善するため、できる限り作業を分担したり、部分的に外部協力者を使ったり、うまく世代交代と作業の分散ができるような工夫や努力を少しずつはじめています。ただ、何より一番大切なことは会員数を増やし人材を増やすことなのですが、その点がなかなかうまくいっていないことは悩ましく思っています。

会員数が伸び悩んでいることは、組織運営の面だけでなく、まちづくりをおこなう上でのつながりや一体感という点でも改善すべき大きな課題だと捉えているという。来年に設立10周年を迎える今、どのような変化が商店会に求められるのだろう。

間中:会員数が思うように伸びないことは長年の課題であり心配ごとです。入会のメリットが明確にならなければ、入会をためらったり、入会してもすぐに退会してしまうことは仕方ないことかもしれません。先ほども話した「目に見えない価値」は、入会してみないと実感できないことですが、実際のところ多くの会員が、会員同士の経営の相談や店舗間の商品・イベントのコラボレーション、行政とのつながり、まちの最新情報入手、商店会を通じた店舗の広報・PRなど、多くのメリットを感じています。最近入会した方が、この点を理解してくれて「メリットしかない」といってくれたのは、正直とてもうれしかったですね。こうしたメリットや商店会の考えを未加盟店舗に理解してもらうためにも、商店会の外からの「見え方」も変えなければいけないのかもしれません。例えば、会員種別を設けて入会のハードルを下げたり、日頃から近隣店舗とのコミュニケーションを深めることも必要だと感じています。せっかく同じ地域でお店を開いているので、やはり皆が一つになって三宿を盛り上げるようになりたいですね。

■FUTURE:これからの三宿、これからの商店会

間中会長の三宿への強い思いは、商店会という組織だけでなく三宿のまちまでを少しずつ変えようとしている。商売のための組織という従来の商店会の概念を超えて、まちづくり組織としての将来の可能性を強く感じさせる「Mishuku R.420」。商店会の未来、そして三宿のまちの未来をどのように描くのか。

間中:私自身の会社も都内の商業施設に複数出店していますが、そうした経験から感じているのは、都心部の大規模再開発や郊外の大規模商業施設の開発、インターネットショッピングの伸張などが今後ますます商業の中心になっていくという危機感です。特に、私たちのように駅からも離れた小さな商店会は、今後ますます厳しくなると感じています。また、一般の駅前商店街と比べると店舗間に距離があり、一体感も乏しく感じるかもしれませんが、だからこそこうしたデメリットを逆手にとって、この地域にしかない個性と魅力でわざわざ足を運びたくなる地域にできないかと考えています。三宿には、商品やサービスにこだわりを持った個性ある専門店が多く集まっていて、IID世田谷ものづくり学校という様々な体験型イベントや展示をおこなっている施設もあります。そして何より、緑あふれる世田谷公園の存在は大きく、この地域にわざわざ足を運ばないと受けられない心地よい空気感や感受性を育む環境に身を置けるという価値は、他の地域では得られない宝だと思っています。
そうした意味では、各店舗だけでなく世田谷公園でのイベントの風景、三宿通りの日常の景観といった要素がとても重要になります。特に三宿通りについては、2017年に商店会で街路灯を設置しました。今後、電線地中化がおこなわれる計画もあり、商店会としても三宿通りの景観、環境を向上させる取り組みに関わりたいと考えています。例えば、地域の皆で育てて楽しめる美しい植栽のあり方や、これに合わせた駐輪スペースの整備などの歩道空間の環境整備、あるいはレンタル自転車の環境整備によるアクセシビリティの向上、コインパーキングのスペースを活用したパークレット(休憩施設)の設置など、地域と一体となった社会実験までも見据えて、計画・提案をしていきたいと考えています。幸い会員のなかには、道路のデザインやまちづくりを専門とするメンバーもいます。こうしたつながりを活かして、様々なアイデアを実現していきたいと思います。

商店会が描く構想は、店舗環境や地域イベントに留まらず、道路、まち、そして人々の生活そのものへと広がる。最後に、まちづくりへのこだわりを間中会長はこう語ってくれた。

間中:考えはじめると夢はますます膨らみますが、私たちがこだわっていることは、商店会が自らの頭で考え行動し共につくりあげるということです。この創造性と自発性から、他にはない地域らしさや個性を大切にした「三宿ブランド」が生まれると考えています。一方で、自分たちばかりでは視野が狭くなったり変化が生まれにくくなりやすいので、地域の方々や専門家など外部の視点やスキルを取り入れながら築き上げていくことも大切だと感じています。商店会としては、会員それぞれが自分の商売だけにとらわれず、常に幅広く世の中全般の流れに視野を広げおのおのが自己研鑽して高い意識を持つことで、商店会という組織がより強固なものになっていくと思っています。また、会員それぞれが置かれている環境や強み・弱みは異なりますので、それを理解してどのように活動に反映させていくのか、世の中の状況の変化に合わせて自分たちがどのように変わっていくのか、そうしたことを意識していくことも大切です。
商店会にはこれまで10年の経験があり、会員個人もそれぞれに経験をしてきました。この経験で得たことをまち全体に広げ、さらに仲間を増やし、より魅力的なまちにしていくことを目指しながら、商店会が媒介となって地域に強い絆を生み出すことが理想です。そのためには、私も商店会ももう少しがんばり続けないといけませんね(笑)。

2018年12月
HTOKYO 三宿店にて

文・インタビュー:御代田和弘(4FRAMES/MISHUKU R.420)